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朝食はテレビを消して話しながらとる。 「朝の食卓」の話題は近所の中島公園、健康、そして札幌シニアネット(SSN)、カラオケ、歩こう会など。
「また、名古屋の鯛めしか~」
「贅沢言うんじゃないよ、裁判官だって餓死しているんだよ!」
昭和24年の我家の食卓での会話です。家の中は全国の汽車弁の空き箱でいっぱいでした。

バラック住まいとはいえ乞食ではないので「お恵みください」とは言えません。返す当てはないのですが、、一応「貸して下さい」と言います。「借りる・返さない」を繰り返しているうちに、どこからも相手にされない一家になってしまいました。

もう明日から食べる米はもちろん、芋もかぼちゃも、何もありません。「窮すれば通ず」といいますが、まさにその通りです。汽車弁の残りを食べることを思い付きました。しかし、A駅では家族6人分の弁当を確保することはできません。 弁当といっても食べ残しです。当時は弁当を残す人は非常に少ないのです。

そこで家族会議です。一家の存亡を託した会議ですから真剣です。協議の結果、場所はB駅の操車場、狙いは清掃前の客車と決定しました。

ここには全国各地から膨大な量の弁当の空き箱が集まって来ます。 
「飯もおかずもいっぱい残っているぞ~!」
病床の父から力強い助言がありました。この界隈に詳しいのは父だけです。

場所が決まれば次は人事です。運搬役は中一の兄、検査役は母と決めました。衛生には人一倍うるさい母です。検査を通れば安心して食べることが出来ます。

次男と三男たる私はカマ焚き役です。当時は機関士の助手は「カマ焚き」と呼ばれ機関士への登竜門でした。機関士は少年達の憧れの的です。

経木の弁当箱だけでは燃料不足なので、「カマタキー、石炭ないぞ~」と声がかかると「ガッテンだ」と応じ魚屋の傍にいって、空き箱を黙ってもらってきます。魚の油が沁みこんでいるので、めらめら燃えて気分がよかったです。

検査は先ず、見た目です。次は鼻で臭いをかぎ、最後にホンの少量を口に含んでみます。これで異常がなければ合格です。合格した「製品」は熱湯消毒を兼ねて蒸かします。そのとき役に立つのが弁当の空箱です。経木で出来ているので火が付き易くよく燃えます。包み紙から割り箸まで燃やせるのだから便利です。

名古屋の鯛めし以外は忘れましたが、全国津々浦々の弁当が我家の食卓に並びました。さながら、弁当品評会みたいなもので、それなりに楽しい食事でした。ただ、この宴を楽しむには一つだけ条件がありました。それは「だれにも知られない」 これが肝心です。

これで我家の食糧問題は解決かと思い、ホッとしたのもつかの間。 思わぬ問題で頓挫してしまい、元の木阿弥となりました。

終戦前は豊かな暮らしをしていたので、極貧状態になってもプライドだけは高く、乞食同様の暮らしをしていることは秘密中の秘密でした。 後から考えれば、こんなことが長続きするはずはないのですが、当時は名案と思いました。

破綻は案外早くきました。運搬中に兄が警察に捕まりました。リュックを開けることを強引に拒んだので逮捕されたのです。中身はスカスカの残り弁当箱ですから、軽いのですがリュックの大きさが凄いのです。それで腕利きのヤミ屋と疑われたのです。

交番に連れて行かれリュックは強制的に開けられました。中身を見た警官は同情し、詫びて励ましてくれたそうですが、兄の受けたショックが収まる筈がありません。警察に捕まったのが、ショックなのではなく、残飯を食べていることを知られたのがショックなのです。

兄は10歳までは豊かな家庭の坊ちゃんとして育ちました。3年後には、この落差です。兄は立ち直れなくなり、その後、病床に臥し回復するのに数年もかかりました。一家も食うに困る生活に後戻りです。

長男はショボクレテしまっても、次男と私はまだ元気が残っていました。これも兄の汽車弁のお陰と感謝はしています。

「腹減ったな、車庫をやるぞ!」と次男が言うと、私は「ガッテンだ」と応じました。 車庫というのは、近くにある路面電車庫のことです。まだ空襲で焼けた資材が利用されることもなく放置されていました。

人気のないことを確認して、二人でやっと持てる大きさの鉄棒を持ち出しました。「アカ(銅)なら金になるんだがな~」とかボヤキながら馴染みのクズ屋に持って行くと、足元をみられてたった8円でした。甘食(小さな甘いパン)買って半分ずつ食べました。

これが最後の「悪事」です。10歳からは新聞配達のアルバイトを見つけて正当な報酬を得るようになりました。

私はテレビなどで、戦時下に置かれた小さな子供が、くわえタバコなどをして粋がっている姿をみると何となく愛おしく感じます。 子供が大人ぶって虚勢をはらないと生きていけない地域が、今でもあることは不幸なことです。

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【2009/03/08 19:16】 | 照る日曇る日
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