朝食はテレビを消して話しながらとる。 「朝の食卓」の話題は近所の中島公園、健康、そして札幌シニアネット(SSN)、カラオケ、歩こう会など。
困ったことに正直に言えないこともある。頭脳明晰、スポーツ万能、囲碁将棋麻雀等あらゆるゲームに精通とか、こんなことは言い難い。それが自慢と思われるのが怖いのだ。気が小さいのが唯一の欠点かもしれない。

「オマケに容姿端麗。まったく羨ましいよ」
「止めてください。実物を見られて恥をかくのは私です」
「歌も凄く上手い」
「何を言うんですか! 全部ウソだとバレちゃうじゃあないですか」
今日はエイプリルフールだ。スマートに嘘をついて日頃の鬱憤を晴らそうと思っていたのに無粋な先輩にぶち壊された。哀れな私を慰めたつもりだろうか?

総合的な意味で人間力が弱いから何をやってもダメなのだ。せめて勝ち負けの付かない歌ぐらいは楽しみたい。趣味と言えるものは何もない。その代り自由時間がたっぷりある。歌を一つ覚えるのに人の百倍もかかったとしても何の痛痒も感じない。苦労して覚えれば楽しさも百倍になるかも知れない。

マイ・ボニー or マイ・バニー
「先輩は英語が得意ですよね」
「進駐軍で働いていたからな」
「『火を貸して下さい』は英語でなんて言うのですか?」
と聞きながら煙草を吸う仕草をする。
「サンバリライトだ」
「有難うございました」
「ナレロ」
「何ですか、そのナ・レ・ロと言うのは?」
「英語でドウイタシマシテと言ったんだ」

先輩に聞きたいことがあったので、それとなく実力を探った。私の知らないことを沢山知っているのだから英語が得意に違いない。質問と言っても大したことではないが、私にとっては重大な問題だ。私は今、進むべきか退くべきかの岐路に立っている。

「マイ・ボニーという歌あるでしょう。カラオケの画面ではボニーとカナを振ってあるのですが、ミッチ・ミラー合唱団が歌うのを聴くとバニーとしか聞こえないのです。どっちが本当ですか?」
「そんなことドッチでもいいじゃないか」
「よくありません。ボニーと12回も出てくるのです」
「それがどうした?」
「私が間違えるたびに皆笑うのです。12回も笑われたら歌えません」
「歌わなければいいだろう」
「それは言わないルールです。先輩なら分かるでしょう」
「答える前にやってもらうことが一つある」
「はいはい、何でもやりますよ」
「先ず耳鼻科に行って診てもらえ」

札幌シニアネット:カラオケクラブの洋楽カラオケに参加
早いもので札幌シニアネットのカラオケクラブで開いてくれる洋楽カラオケに参加して半年近くたった。そこでは外国語で歌うことになっている。私のように英語で歌いたいけれど歌えない人にとっては、とても有難い決まりだ。どっちでもいいよと言われたら心ならずも和訳で歌うことになる。しかし、それではつまらない。

カラオケを始めたのは65歳のときだった。それまではカラオケ嫌いと思われていたし、自分でもそう信じていた。音楽は好きだが、そのことを人には言えない。知識と実技のアンバランスが思わぬ災いをもたらすことがあるからだ。例えばカラオケに誘われても行かれない。恥ずかしながら隠れ音楽ファンだった。そんな私が殻を破ってカラオケを始めたのは、絶好の機会に恵まれたからである。

「下手な人だけでカラオケやらない」と気心の知れた間柄のAさんに誘われた。
「どうして?」 ハッキリした理由が分からないと怖いのだ。
「カラオケ会に行くのに、練習したいんだけど一人で行くのは嫌でしょ。もう一人誘ったからね。Bさんだよ、貴方知ってるでしょう。下手同士で気楽にやろう」

Bさんと聞いて安心した。音痴は充分承知の上で選ばれたのだ。そういうことならやってみたい。もともと歌うのは大好きだ。オマケに秘密にしようと言うのだから有難い。誰にも知られることなく伸び伸びと楽しく歌えそうだ。

あれから10年たったが依然として音痴のままだ。難病のように原因が分からないので治療法が確立されていない。治らないし克服もできない。楽しく付き合って行くべきものと理解している。

「テレビでね。家のワンちゃんは歌が上手とか自慢している奥様がいたのですよ」
「そうかい」
「どうと言うことなかったですね。ウ~とかア~うなっているだけですよ」
「自分の方がよっぽど上手いと言いたいのか」
「人間に生まれて好かったです」

隠し事が多くて恐縮だが歌謡曲よりジャズが好きだ。ついでに白状すると、英語で何か歌いたいと密かに夢を抱いていた。それで……、

「洋楽カラオケを始めました」
「お前が? 無理だよ。なんで俺に相談しないで決めるんだ」
「一人で聴いているより、皆さんの前で歌った方が楽しいですからね」
「ろくに歌えないのに大丈夫か?」
「恥ずかしいです」
「そうだろう。だから心配なんだよ」
「楽しさと恥ずかしさを天秤にかけたら、楽しさが重すぎて恥ずかしさが吹っ飛んでしまいました。上の方にポーンとね。どこに行ったのでしょうか」

このブログは毎週土曜の更新。次回は4月9日です。よろしくお願い致します。

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【2016/04/01 00:00】 | 札幌シニアネットssn
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