自分が何処にいるのか分からなくて恐怖を感じたことがある。その時バスは高速道路をノンストップで走り続けていたが、何処に行くのか分からなくなってしまったのだ。まあ、こんなことで怖いと言えば笑われるかも知れないが。
息子が誕生祝にと白老の温泉一泊旅行をプレゼントしてくれた。QP同行だが有難く頂いた。今更「それほど仲は好くないのです」とも言えないからね。プレゼントは情報だけだから手に取ることができない。
メールにはホテル名と乗るバスと降りる停留所名、料金は払ってあること、登別でバスを降りればお迎えの車が待っていることが書いてあった。至れり尽くせりだ。私がやるべきことは11時30分に室蘭行きのバスに乗り、登別で降りるだけ。後はお任せと簡単に考えていた。後で考えるとこれが間違いの元だった。
乗り慣れている快速電車は発車前に必ず、行き先と停車駅を知らせてくれる。しかし高速バスは「発車します」と言ったきりだ。乗れば分かると思っていた私が愚かだった。気付いたときは高速道路の上でシートベルトをしていて身動きも出来ない状態だった。無口な運転手だが「席を立たないで下さい」と人を縛り付けるアナウンスだけはチャンとした。
困ったな、何か手がかりがないかと乗車前に買ったバスの往復切符を見た。なんと行き先が「幌別」となっているではないか。思いもよらぬ展開でビックリした。買う時に「登別駅でもなく登別温泉でもない、ただの登別です」と、間違いが無いように念を押したのだ。幌別なんて聞いたこともない。買った切符を確認しなかったのは迂闊だった。人間は時々間違えるから嫌だ。その点コンピューターはいい。間違えたら間違え続ける。だから改修することができる。しかし人間は……?
ともかく運転手に聞いてみたい。走っているときは動けないから誰かが降りるのを待つことにした。運転席左上の表示は次の停留所の示している筈だが、「高速恵庭」になっている。だいぶ時間がたっているのに変だ。道路標識を見ると苫小牧辺りらしい。もうじき白老ではないか。心配になったのでQPに声をかけた。
「もう苫小牧ですよ」
「なに?」
三つ離れた席に座っているので声が届かないようだ。左の窓側から私、空席、空席、右の窓側にQPの順。広々とのんびりできるのだが、こんな時はちょっと困る。
高速恵庭だった表示が別の地名に変わりだしたが知らない地名ばかりだ。降りる人は誰もいないので運転手に聞くチャンスもない。だんだん不安が増していく。道路標識には白老と書いてあるので通り過ぎるのではないかと心配になって来た。泊まるホテルは白老にあるのだ。
「もう白老ですよ。一体どこまで行くのでしょうか?」
QPも不安を感じたらしい。先ほどの私の様に切符を見ている。
「幌別と書いてあるよ。登別でしょ。確認しなけりゃダメじゃない」
お互いに声は次第に大きくなって行く。非難の声は他人様にも聞かれるだろう。
高速バスは白老標識を後にしてどんどん進んで行く。運転手は1時間以上も無言のままだ。なにが何だかさっぱり分からない。斜め前方三つくらい先の席に若い女性が座っているのが見えた。「すみません」と何回も声かけたが何の反応もない。
自分が何処に居るのか分からない。しかしバスは高速で走り続けている。運転手も乗客も知らんぷり、私は座席にシートで縛り付けられている。いったいこれは何だろう。苛め、シカト、それとも祟り?
こうなったら仕方がない。パスを止めて運転手に聞くことにした。「高速××」とか知らない地名が表示されているが「降車ボタン」を押した。念のため腰を上げて前席を覗くと、ここにも若い女性が座っていた。大騒ぎしたがこんな近いところに人が居たとは知らなかった。知らんぷりされたら、もう後はないので耳元でハッキリと言った。
「すみませんが、このバスは登別を通りますか?」
「とおります」
女性は突然の大声にビックリしていた。軽く肩でも叩けば好かったかも知れない。ともかくビックリしながら嘘をつく人もいないだろう。女性の返答を信じることにした。不安を抱えて1時間半、ようやくこのバスが登別を通過することが分かった。
切符に書いてある「幌別」は知らないが、登別を通ればそれでいい。降りればホテルの車が待っているはずだ。しかし、これにて一件落着ではない。「高速××」では降りないことを運転手に伝えなければならない。皆無口で静かな車内なのだからいきなり大声を出すのも気が引ける。先ずは中声で試すとにした。
「高速××では降りません。登別で降ります」
「はいはい」と運転手。
なんだ? 聞こえているではないか。ふと都会の孤独とはこんな感じかな、との思いがよぎった。
バス停登別は高速道路を出て直ぐの所にあった。結局、バスの中で喋りまくったのは私だけ。関係者は必要以外のことは一言も発しなかった。登別で降りたのは私たち二人だけだった。出発して1時間40分間、誰も乗らない降りない、喋らないバスに乗って調子がすっかり狂ってしまった。
バス停の近くにホテル白老の乗用車が迎えに来ていた。
「ここは白老から随分遠いのですね」
「ここも白老ですよ。白老の町は横に長いのです」
何も知らないとは恐ろしいことだ。高速を出ると直ぐに登別であることも、ここがJR白老駅から6駅目であることも知らなかった。幌別は登別の次のバス停であることも知らなかった。全てはこれを書くのにグーグルマップを見て分かったことである。
先に見るべきものを後で見るなんて、後悔先に立たずだ。何の役にも立たない。しかし白老町は横に長すぎる。白老駅から6つも先の駅まで白老町内とは恐れ入る。まいったな。札幌から一歩でも外にでると、こんなに怖い思いをするのだ。まったく夢にも思わなかったよ。やっぱり世界中で札幌が一番いい。
息子が誕生祝にと白老の温泉一泊旅行をプレゼントしてくれた。QP同行だが有難く頂いた。今更「それほど仲は好くないのです」とも言えないからね。プレゼントは情報だけだから手に取ることができない。
メールにはホテル名と乗るバスと降りる停留所名、料金は払ってあること、登別でバスを降りればお迎えの車が待っていることが書いてあった。至れり尽くせりだ。私がやるべきことは11時30分に室蘭行きのバスに乗り、登別で降りるだけ。後はお任せと簡単に考えていた。後で考えるとこれが間違いの元だった。
乗り慣れている快速電車は発車前に必ず、行き先と停車駅を知らせてくれる。しかし高速バスは「発車します」と言ったきりだ。乗れば分かると思っていた私が愚かだった。気付いたときは高速道路の上でシートベルトをしていて身動きも出来ない状態だった。無口な運転手だが「席を立たないで下さい」と人を縛り付けるアナウンスだけはチャンとした。
困ったな、何か手がかりがないかと乗車前に買ったバスの往復切符を見た。なんと行き先が「幌別」となっているではないか。思いもよらぬ展開でビックリした。買う時に「登別駅でもなく登別温泉でもない、ただの登別です」と、間違いが無いように念を押したのだ。幌別なんて聞いたこともない。買った切符を確認しなかったのは迂闊だった。人間は時々間違えるから嫌だ。その点コンピューターはいい。間違えたら間違え続ける。だから改修することができる。しかし人間は……?
ともかく運転手に聞いてみたい。走っているときは動けないから誰かが降りるのを待つことにした。運転席左上の表示は次の停留所の示している筈だが、「高速恵庭」になっている。だいぶ時間がたっているのに変だ。道路標識を見ると苫小牧辺りらしい。もうじき白老ではないか。心配になったのでQPに声をかけた。
「もう苫小牧ですよ」
「なに?」
三つ離れた席に座っているので声が届かないようだ。左の窓側から私、空席、空席、右の窓側にQPの順。広々とのんびりできるのだが、こんな時はちょっと困る。
高速恵庭だった表示が別の地名に変わりだしたが知らない地名ばかりだ。降りる人は誰もいないので運転手に聞くチャンスもない。だんだん不安が増していく。道路標識には白老と書いてあるので通り過ぎるのではないかと心配になって来た。泊まるホテルは白老にあるのだ。
「もう白老ですよ。一体どこまで行くのでしょうか?」
QPも不安を感じたらしい。先ほどの私の様に切符を見ている。
「幌別と書いてあるよ。登別でしょ。確認しなけりゃダメじゃない」
お互いに声は次第に大きくなって行く。非難の声は他人様にも聞かれるだろう。
高速バスは白老標識を後にしてどんどん進んで行く。運転手は1時間以上も無言のままだ。なにが何だかさっぱり分からない。斜め前方三つくらい先の席に若い女性が座っているのが見えた。「すみません」と何回も声かけたが何の反応もない。
自分が何処に居るのか分からない。しかしバスは高速で走り続けている。運転手も乗客も知らんぷり、私は座席にシートで縛り付けられている。いったいこれは何だろう。苛め、シカト、それとも祟り?
こうなったら仕方がない。パスを止めて運転手に聞くことにした。「高速××」とか知らない地名が表示されているが「降車ボタン」を押した。念のため腰を上げて前席を覗くと、ここにも若い女性が座っていた。大騒ぎしたがこんな近いところに人が居たとは知らなかった。知らんぷりされたら、もう後はないので耳元でハッキリと言った。
「すみませんが、このバスは登別を通りますか?」
「とおります」
女性は突然の大声にビックリしていた。軽く肩でも叩けば好かったかも知れない。ともかくビックリしながら嘘をつく人もいないだろう。女性の返答を信じることにした。不安を抱えて1時間半、ようやくこのバスが登別を通過することが分かった。
切符に書いてある「幌別」は知らないが、登別を通ればそれでいい。降りればホテルの車が待っているはずだ。しかし、これにて一件落着ではない。「高速××」では降りないことを運転手に伝えなければならない。皆無口で静かな車内なのだからいきなり大声を出すのも気が引ける。先ずは中声で試すとにした。
「高速××では降りません。登別で降ります」
「はいはい」と運転手。
なんだ? 聞こえているではないか。ふと都会の孤独とはこんな感じかな、との思いがよぎった。
バス停登別は高速道路を出て直ぐの所にあった。結局、バスの中で喋りまくったのは私だけ。関係者は必要以外のことは一言も発しなかった。登別で降りたのは私たち二人だけだった。出発して1時間40分間、誰も乗らない降りない、喋らないバスに乗って調子がすっかり狂ってしまった。
バス停の近くにホテル白老の乗用車が迎えに来ていた。
「ここは白老から随分遠いのですね」
「ここも白老ですよ。白老の町は横に長いのです」
何も知らないとは恐ろしいことだ。高速を出ると直ぐに登別であることも、ここがJR白老駅から6駅目であることも知らなかった。幌別は登別の次のバス停であることも知らなかった。全てはこれを書くのにグーグルマップを見て分かったことである。
先に見るべきものを後で見るなんて、後悔先に立たずだ。何の役にも立たない。しかし白老町は横に長すぎる。白老駅から6つも先の駅まで白老町内とは恐れ入る。まいったな。札幌から一歩でも外にでると、こんなに怖い思いをするのだ。まったく夢にも思わなかったよ。やっぱり世界中で札幌が一番いい。
トラックバック(0) |
初めてのおつかい?
路傍の石
この話を読み進めていくうちに、
PPさんとQPさんは「初めてのおつかい」という
テレビ番組に出ているような錯覚を覚えました。
ゴメンナサイ。
ホテルのお迎えの車を目にした時、どんなにホッとされたことでしょう。
親孝行の息子さんがいらして、PPさんご夫婦は幸せですね。
ホントですね
PP なるほど、「初めてのおつかい」にピッタリですね。
私もテレビを見ました。自分で考えてもホントに似ています。
年齢には関係なく思わぬ状況に遭うと焦りますね。
路傍の石
この話を読み進めていくうちに、
PPさんとQPさんは「初めてのおつかい」という
テレビ番組に出ているような錯覚を覚えました。
ゴメンナサイ。
ホテルのお迎えの車を目にした時、どんなにホッとされたことでしょう。
親孝行の息子さんがいらして、PPさんご夫婦は幸せですね。
ホントですね
PP なるほど、「初めてのおつかい」にピッタリですね。
私もテレビを見ました。自分で考えてもホントに似ています。
年齢には関係なく思わぬ状況に遭うと焦りますね。
この記事へのコメント
この話を読み進めていくうちに、
PPさんとQPさんは「初めてのおつかい」という
テレビ番組に出ているような錯覚を覚えました。
ゴメンナサイ。
ホテルのお迎えの車を目にした時、どんなにホッとされたことでしょう。
親孝行の息子さんがいらして、PPさんご夫婦は幸せですね。
2015/10/18(Sun) 21:08 | URL | 路傍の石 #-[ 編集]
なるほど、「初めてのおつかい」にピッタリですね。
私もテレビを見ました。自分で考えてもホントに似ています。
年齢には関係なく思わぬ状況に遭うと焦りますね。
私もテレビを見ました。自分で考えてもホントに似ています。
年齢には関係なく思わぬ状況に遭うと焦りますね。
| ホーム |