朝食はテレビを消して話しながらとる。 「朝の食卓」の話題は近所の中島公園、健康、そして札幌シニアネット(SSN)、カラオケ、歩こう会など。
悔しくて仕方がない。モチを買って来いというからモチを買って帰ったら、このモチではないと言われた。これは苛めだ。世の中には多種多様なモチがある。私が何を買ってこようと、QPは「このモチではない」と言うことが出来る。だから苛めだ。

いつもならここで諦めて黙ってしまう。なぜならQPを説得しようというのは、老朽化したガタガタ車に少々油を注入して新車に変えようとする様なものだ。だから、この3年間苛めや暴言に耐え抜いて来たのだ。しかし今度ばかりは我慢も限界に達し、ズタズタに切れてしまった。思わず「うるさい!」と怒鳴りつけた。

「出てってやる!」と下駄を履いたのはいいのだが、悲しいことに我家は集合住宅。エレベーターに乗って出て行く姿は様にならない。かと言って直ぐに帰るのも憚れる。逡巡した挙句ベランダに出た。とにかく同じ屋根の下には居たくない。同じ空気を吸いたくないのだ。

こともあろうにQPは、鍵をかけて私を締め出した。トントンと叩いても開けてくれない。春の夕暮にシャツとセーターでベランダでは寒くて仕方がない。とりあえず身体を温めるために歩き回った。しばらくしてトントン叩いてもまだ開けようとしない。こうなったら最後の手段だ。近所迷惑も顧みず大きな音が出るようにバンバン叩いた。その時、もうQPとはやって行けない、という思いが込み上げてきた。

私が一部始終を語り終えると先輩は、瞑想する僧侶のように目を瞑りポツリと一言、「別れる必要はない」。

「はぁ?」
「お前は既に別れている。今更法律的に別れて何の益がある」
「別居を勧めるのですか?」
「別居? お金がかかるよ。あるのかい?」
「それじゃあ、家の中を二つに分けるとか……」

「バカなことを言うんじゃないよ。小さな家を半分にしたら不便になるだけだ」
「じゃあ、どうしたらいいのですか」
「だから、今のままでいいんだよ」
「それが最悪だから、相談に来たのです。もう帰ります。来るんじゃなかった」
「ちょっと待ったぁ! 最後まで聞きなさい」

「はいはい、ダメでもともと。拝聴しましょう」
「QPさんは買物とかサークルなど、よく外出するだろう。その間お前は一人。 お前が外出すればお前は一人。書斎にこもればお前は一人。寝ているときもお前は一人。まさか一緒に寝たりしていないだろうね?」
「いえいえ、とんでもない」
「しっかりと別れているじゃあないか」

「トイレに行くのも私は一人(笑)、な~んちゃって」
「出すのも一人」
「拭くのも一人」
「あの世に行くのも一人ずつ」
「…………」
「どうした?」
「なんか寂しいですね」
「そんなもんだよ。人生は」

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【2015/03/28 00:00】 | 夫婦喧嘩
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