朝食はテレビを消して話しながらとる。 「朝の食卓」の話題は近所の中島公園、健康、そして札幌シニアネット(SSN)、カラオケ、歩こう会など。
~男はつらいよ女は強いよ~
「女性はなぜ長生きか?」。 この答を病院の中で見つけた。 
素直が一番。 自分の気持を正直に伝えられるからだ。

太平洋戦争中の潜水艦の水中速力は輸送船より遅い。従って潜水艦作戦は、敵が来そうな場所で待機する「待ち伏せ作戦」が基本だ。

入院中、居場所はベッド一つの私にとって、広い食堂は太平洋のようなものだ。自動給茶機があるので、人の寄るルートにもなっている。夜の夜長は潜水艦のように、ここで静かに待ち伏せ作戦をすることにした。

同室のA君が献立表を見に来た。確認するように見ては直ぐ帰るのだ。こんど来たら笑わしてやろうと、待ち構えていた。 

私はノロマだから冗談が言えない。思いついた頃には話題が先に進んでしまうのだ。 しかし、今回は違うぞ。考える時間がたっぷりある。

A君はたしか「ブタのレバーが嫌い」と言っていたな。 ブタとレバーの二つをキーワードにしよう。 歌にして節をつけたらもっと面白いだろう。 

やはり来た。彼の頭の中は食事のことでいっぱいだ。いつもそうなのだ。 A君、献立表を見て、「ちぇ。レバーか」と、さっきと同じようにつぶやいた。

待ってましたとばかりに節をつけて歌ってみた、「なんかい見ても いっしょです~♪ レバーはレバー ブタはブタ~♪」。 A君ニコリともしない。 これは辛いし、腹も立つ。 

自分が機嫌いい時は、つまらない噂話をペラペラ喋るくせに、人がゴキゲンなときは知らん振り。四十過ぎたというのに、まるで子供だ。こんな勝手な人とは思わなかった。

かなり流行った「美貌の都」だが、ちょっと古かったかも知れない。 1957年映画の主題歌で宝田明が歌っていた。

「すったもんだと 言ったとて~♪ 嫌いは嫌い 好きは好き~♪ ……」字数を合わせるのに、かなり苦労した。 A君まだ生まれていなかったし、分かりにくかったかも知れない。

「あんたホントにアホやな」。 牢名主と自称する長期入院のBさん。
「何でですか! 古かったかも知れないと反省してるじゃないですか」
「ヤッコさんはな、間違いであってほしい。と期待して見に行くんだよ」
「そうだったのですか」

「どうかレバーじゃないようにと念じながら、献立表を確認するのだ」
「悪うございました。A君に秘蔵の梅干を上げて、機嫌直してもらいます」

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コッコッと足音がするので反射的に顔を向けると目があってしまった。 ニッコリ笑って「こんばんは」と言った。 これがキッカケで年配の女性とお話をすることになった。

「私、何の為に一人でガンパッテきたのでしょうね」
彼女は定年まで働いて、その後は新築のマンションを買って一人暮らしをしていたそうだ。

「主人は64歳で亡くなったけれど、貴方に似て前ハゲなの。何だか懐かしいのよ」
「そうですか」
こんな頭でも人様の役に立つことがあるのかと、少しは見直した。

「この歳で初めて入院したの。上と下が悪くてね」
「上と下ですか?」
「吐き気と下痢よ。こんなにやせちゃった」
「大変ですね」

「昨日甥が来て、車で篠路の方に連れて行かれたの。老人ホームみたいな所なのよ」
「一緒に歩いていた方ですね。 お子さんかと思いました」
「子供はいないし、迷惑かけられないからね。入らなければならないと思ってるの」
「気が進まないようですね」

「今まで一人で頑張って来たからね」
「せっかく築いた自分の城を明け渡すようなものですね」
「寂しいよね」
「寂しいですね」

「何か書いていたのでしょ。 邪魔して悪かったね」
「いいんですよ。暇つぶしですから」
「話したら、なんだか気が晴れたわ。ありがとね」
「それは良かったですね。叉、話しましょう」

「あらっ! なに書いてるの。ちょっと見せてよ」
「嫌ですよ! 日記ですから」
おばあさんには敵わない。断ったのに、近寄ってのぞいた。

「書きなれているじゃない」
「下手です。字なんか書いたことありません。いつもワードを使っています」
「この字違っているよ。 直してあげる」
「いいですよ。後でワードが直してくれるから」
「ワダさん?」

タイミングよく、食堂に年配の女性が入って来た。
「お友達みたいですよ」
「あの人、夕べ廊下に立っていて、入院したばかりで、話し相手がいないのと言うのよ」
「そうですか」

「話し終わると、話してくれてありがと。とお礼を言うの」と、言うが早いか私を置いて、お喋りに行ってしまった。昨日会ったばかりというのに、まるで10年来の親友のようだ。

*     *     *
       
「女性は素直に自分の気持を言えるから羨ましいですね」
「あんたもそうすればいいじゃないか」
「『ボク、話し相手がいないから 寂しいの』。なんて言えませんよ」
「それもそうだな、男はつらいな」

「廊下に立って、歩いている人を捉まえて言うんです」
「あんたにもか?」
「いえ、私は見ていただけです。 直ぐに話相手できましたよ」
「凄いね。ちょっと立ちんぼしただけで……」

「私なんか食堂の片隅で15日もですよ」
「例の待ち伏せ作戦か。叉、何か名前付けたんだろう」
「オペレーション・サブマリンです」と、胸をはる。
「潜水艦作戦のつもりかい。あいかわらず好きだね」

「私が潜水艦でね。給水にくる輸送船を待ち伏せするんですよ」
「つまり、食堂にお茶を飲みに来る人を待っているわけだな」
「一人でですよ。 潜水艦ですから」

「もっと気軽に『こんばんは、寒いですね』とか言えんのかい」
「食堂は暖かいですよ」

「それなら『調子はどうですか』とか聞けばいいじゃないか」
「調子はみんな悪いんです」
「みんな?」
「病人ですからね」

2008/3/11

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【2009/03/12 13:47】 | 照る日曇る日
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