朝食はテレビを消して話しながらとる。 「朝の食卓」の話題は近所の中島公園、健康、そして札幌シニアネット(SSN)、カラオケ、歩こう会など。
ある種のコンプレックスは人間をつくる。私の場合は頭に劣等感を持っていた。そのお陰でこのような穏やかで控えめな人になれたのだ。しかし、周囲で同じ様な頭の人が増えるに連れて化けの皮が徐々に剥がれて来た。本来の派手好きで目立ちたがり屋の部分で出て来てしまうのだ。困ったものだ。私はどうなるのだろうか。

「良いニュースと悪いニュースがある。どっちを先……」
「どっちでもいいですよ。先輩も私もヒマなんですから」
「実はな、アメリカの偉い科学者が、5年以内にハゲを無くすと言ってるんだよ」
「5年と言うと私は80歳ですね」
「もうちょっと早く出ればよかったな」
「そうですね。40年くらい前とか……」

週刊ポスト2016年2且26日号の新聞広告にこう書いてあった。「話題沸騰!! 謎はすべて解けた。あと5年で『ハゲはすべて治る』米『サイエンス』誌の注目論文」。

記事を信じるとしても、金もかかるだろうし、髪の手入れも必要だ。しかも肝心な命がいくら残っているかも分からない。皆がやらない限り、絶対にやりたくない。しかし周りの皆がやり出したらどうしよう。私一人がハゲというのも楽じゃない。

今から30年くらい前は、私一人ハゲていて辛かった。最近になって漸く周囲に同じような人が増えて気が楽になったのだ。今更解決すると言われても嬉しくもない。80歳になって頭が黒々してくる自分を想像できない。何となく不自然だ。

「毛生え薬の話は昔からあるけれど、未だに解決されていません」
「昔っていつだ?」
「先輩も生まれていない明治時代の話です」
「チョンマゲが終わったら早速ハゲの心配か」
「日本人も欧米人並にハゲが目立つようになったのです」
「そうか、チョンマゲはハゲ隠しになっていたんだな。昔の日本人は頭が良かった」
「アメリカの医学博士が画期的な『毛生液』を開発したと言う話があったのです」
「日本でも売っていたのか」
「日本産ですよ。明治から大正にかけて洋風イメージで売っていたそうです」

中国の毛生え薬も評判だったが、今度は世界で特に権威がある学術雑誌の一つとされているアメリカの「サイエンス」誌の話だ。今度こそとは思うけれど、もう遅い。

「毛生え薬は狼少年ですね」
「そうだそうだ。発明、発見も聞き飽きた」
「興味もなくなりました」
「俺たちは、ついに時間切れだな」

「生まれ変わったらハゲが居ません」
「寂しいな~」
「短足もデブもいないのです」
「なんだと?」
「ハゲを克服した人類が、他の問題を解決できないはずはないでしょう」
「なるほど」

「スタイルのいい綺麗な人ばかりになってしまいます」
「結構なことじゃあないか」
「誰が誰だか分からなくなりますよ」
「それは大変だ」
「そうでしょう」
「面と向かってオレオレ詐欺をやられちゃうよ」

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【2016/03/26 00:00】 | 愚かな私
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