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朝食はテレビを消して話しながらとる。 「朝の食卓」の話題は近所の中島公園、健康、そして札幌シニアネット(SSN)、カラオケ、歩こう会など。
2ヶ月間の試行錯誤の末、2003年4月1日、待望のホームページ(HP)が開設された。教室にパソコンは無いので、家で作って画面を印刷して持参した。「やさしい英会話」の先生はとても喜んでくれた。

「皆さん、ペラペラクラブのHPができました。いよいよ世界に向けて発信です」
と先生の言葉は相変わらず威勢がいい。一方私は初心者ですからお粗末ですがと、一応謙遜して見せたものの得意満面のさまを覆い隠すことができただろうか。

次の日は市内バス旅行。Aさんのご機嫌も好く、「ここに座りなさい」と隣の席を勧めてくれた。チョッと窮屈だが心地よいロマンスシート。
「キリマンジャロって知っている」
「知ってますよ。キリマンジャロの雪とか…」
「それは映画でしょ。私は登ったのよ。ゴールドの登頂証明書もらったよ」
「あのアフリカ最高峰のキリマンジャロですか!」
「シルバーは途中までの登頂。ゴールドは頂上。同じ証明書でも格が違うのよ」

象に乗って密林を超えベンガルトラの生息地にを行く話、標高5千メートルのエベレスト・トレッキング等、私の全く知らない世界の果てをこともなげに話してくれた。最後にホームページ有難うと言われ、とても嬉しかった。

後になって考えてみれば得意になって喜んだのはホンの一瞬だった。もともと得意なものなど何もない。ストンと落とされても元の位置に戻るだけの話。いつだってそうなのだ。慣れているはずだが今回だけは、なぜか哀しい。

次の英語の日に、Aさんが「HPを見せたら、こんなメールをもらっちゃた」と印刷されたメールを見せてくれた。「こんな酷いHPは見たことない」とあり、具体例が幾つも示されていた。IT(情報技術)関係に勤めている息子さんから母君へのメールは、容赦ない酷評の羅列で溢れていた。遠慮の無い母子間のメールは私の心をズタズタに切り裂いた。

パソコンを一人でやって来た私にとって、何とか動けば成功。しかし、それでは世間に通用しない。指摘されたことは、一つひとつ思い当たることばかりだ。元々なにも分からない中で追っ付け仕事的にやっていただけ。そして何とか動いた。それだけの話。パソコンなど何も知らない人の中でしか通用しないママゴトの様なものだった。

「テレビで観たんだけど、シニアネットと言うパソコンを勉強している団体があるんだって。アンタも行ってみない」とQPが言った。

別に私の窮状を察しての話ではない。もう少し、私の居ない時間を増やしたいだけだ。 しかし私は、これだっ! と思った。まさにタイミングのいい救いの神の出現だ。さっそく「札幌シニアネット(SSN)」で検索し、SSNHPにアクセス。そして入会した。

SSNに入ると迷わずホームページクラブに入った。言うまでもなくHP「ぺらぺらクラブ」のリニューアルのためである。入会目的はHP作成の勉強。一生懸命学んだ結果、Aさんもご子息が「好くなったね」と言ってくれたと喜んでいた。もちろん私は大喜び。人生の晩年になって、ようやく木漏れ日のような明るさが射して来たたような気がしたのだが…。

このままで済むはずはない。一見静かな空気の中で誤解の芽はすくすくと育っていたのだ。だから世の中ままならない。今の私の立場なら、恥ずかしいという感覚さえなくせば楽にノンビリ生きられるのだが、なかなか思い切れない。

誤解は誰の心の中で育っているのだろうか。皆さんか、Aさんか、はたまた私か?

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【2014/07/26 00:00】 | 照る日曇る日
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鬼藤千春の小説
「鬼藤千春の小説」のブログへ訪問いただきまして、有り難うございます。今後ともよろしくお願い致します。

どういたしまして
pp
どういたしまして。
前向きで好感のもてる小説と感じました。
これからも頑張ってください。


カスミ草
Aさんの息子さんの酷評にメゲズ、SSNなる会を知るや迷わず入会、
即ホームページクラブで勉強するなんぞ、PPさんの向上心は天晴れですね。

結果「木漏れ日のような明るさ」が射して、良かったですね。

「静かな空気の中でスクスク育つ誤解の芽」とは何ぞや?
no4はどんな展開となるのでしょう。

一生懸命が好きです
pp
やはり、自分のやりたい事を一生懸命やるといいですね。
批判されても、それを力に替えることが出来るのです。
PPを褒めてくれて有難う。フィクションですから立ち直りも早いのです。
私はぜんぜんダメですよ(笑)。

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