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朝食はテレビを消して話しながらとる。 「朝の食卓」の話題は近所の中島公園、健康、そして札幌シニアネット(SSN)、カラオケ、歩こう会など。
伊丹十三監督の『大病人』という映画があるが、私もある意味では大病人だ。大きな病院のマニュアルを変えてしまったのだから、病人としては大モノかも知れない。小人である私は密かに誇りに思っている。

古い話で恐縮だが、朝一番で血液検査の為に大病院に行った。いつもの様に検査室の前では、大勢の患者が呼ばれるのを待っている。まるで子羊のように従順に待っているのだ。 ああ、それなのに!

まだまだ先だなと思って本を読んでいると、突然「石川ひろしさーん」と呼ばれたので慌てて本とメガネをしまい検査室に入ろうとした。 

すると後ろの方から声が聞こえる。「オレの番だ」とブツブツ言っているのだ。低い声だが怒りがこもっている。恐る恐る名前を聞くと、「石川きよし」と名乗った。どうやら私の聞き違えらしい。

検査室に入ってもまだ怒っている。大きな声で看護師さんに、文句を言っているのが聞こえた。「間違えちゃあダメだよ。2回目じゃないか。しっかりしろよ」。聞き違えたのは私だから遠くにいても肩身が狭い。看護師さんごめんなさい。

だが待てよ、石川きよし? この名前どこかで聞いたような気がするが思い出せない。しばらくすると私の名がよばれた。こんどこそ間違いない。

ふとあることを思い出した。3か月前検査に来たとき、この石川きよしさんと間違えられて、「24時間ホルダー心電図」を装着されそうになったのだ。彼の言う「2回目」とはこのことに違いない。

採血のとき看護師さんにその事を言った。
「私、あの人と間違えられて24時間ホルダーを付けられるところでしたよ」
「えッ、あなただったの! 病院中大騒ぎになったのよ」

看護師長さんから注意があったと聞いてホッとした。長年通っている病院を信頼できると確信できたからだ。患者を間違えても騒ぎにならないような病院なら、通い続けてもいいものかと、考え込んでしまうだろう。

そういえば、今回の本人確認手順はやけに念入りになっている。名前と生年月日を言わされ、「採血容器」に貼った氏名の確認。さらに採血を依頼した医師名の確認もあった。

驚きの確認手順だ。図らずも私は大病院の業務処理マニュアルを改訂させてしまったのかも知れない。これは凄いことだ! 

あのとき私は、間違えられた相手の人に会いたいと思った。理由はないが一体どんな人と間違がわれたか知りたかった。できれば話もしたいと思っていた。

それが2回目の聞き違いで偶然会うことになったが、色の黒い暗い感じのヨボヨボな人だ。私が「石川ひろしですが…」と話しかけたときも、ウンでもスンでもなく黙ったまま、まるで病人のようだった。

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「この美人はだれ?」
「彼女です」
「まさか! 聞き違いかな?聞き違いだよね」
「みんなの彼女です」
「名前は?」
「座りマネキンと申します」


ここで「なぜ間違われたか」の概略を説明したいと思う。いかなる状況下で人は他人と間違えられるか。どうしたら避けられるか、参考になるかもしれない。

3ヶ月くらい前の話だが採血をしてから診察することになっていた。看護師さんから「二診に行ってください」と指示されて行ってみると、いつもと違う場所に「第二診察室」と書いてある。 

確認のため看護師さんに聞くと、「表示が変わっただけです。その場所でいいですよ」と答えてくれた。軽い違和感を覚えたが信じてしまった。

名前を呼ばれたので診察室に入ると医師がパソコンをじっと見ている。初対面だが最近はよく医師が変わるので「またか」と思っただけだった。

「検査の結果では血糖値がうんぬん…」と先生。
「一時的なものではないでしょうか。1か月入院して、退院しても家でゴロゴロしていたものですから悪い数値が出ているのです。それで今日再検査に来ました」
私は交代した医師に今までの経過を説明したつもりだが、医師は嫌な顔をした。診たてに意義を唱えたと思ったらしい。

「一時的じゃあないよ。今日だって悪いし」と、パソコンの数値を見ながら言った。
「あれっ!もう結果が出たのですか?」
検査には1時間はかかる筈なのに受けてから30分もたっていない。それなのに結果が出たとは何故だろう? 疑問には思ったが確認はしなかった。

「出てるよ。なにか心配事でも?」
出ていると断定されると、急に心配事の方が気になってきた。
「ときどきクラッと来るのですが、今までなかったことなので心配です」
「○○の数値も悪いし、24時間携帯の心電図で検査しなさい」

訳が分からないが、心配だから心電図検査を受けるけることにした。診察が終わったが、いつもと違って待っていてもなかなか看護師さんが説明にこない。

「石川ひろしさーん」。遠くの方から私を呼ぶ声が聞こえたが、あちらから呼ばれるはずがないので無視した。

遠くの方から看護師さんが走ってきた。「石川ひろしさんですね。八診に来てください。二診の後、八診と言われているでしょ」と非難するように言うが、私には何のことか訳が分からない。

「24時間心電図の予約したでしょ」と、さらに厳しい声で言いながら予約票を私の前に突き出した。
「あれっ! これ別の人ですね。私はひろし、こちらはきよし、人違いと思います。確認してください」

看護師さんの顔色が変わった。「ちょっと待ってください」と、慌てた様子で診察室に駆け込んだまま出て来ない。 

なかなか出てこないので別の年配の看護師さんに、一部始終を話したら、その看護師さんも室にはいったまま、なかなか出て来ない。

しばらくすると責任者らしい看護師さんが先ほどの看護師さんを従えて来た。「ほかの人と間違えたようです。私たちも気をつけますが、患者さんも気をつけてください」と、能面の様な顔をして責任者は言った。

「名前を呼ばれたから診察を受けたのです。自分の氏名を見るチャンスもなかったのですよ。どう気をつければいいのですか?」と聞くと、黙って行ってしまった。 

<患者どうしの雑談>
「先生は誰だか分からなくても診察できるんですか?」
「検査の数値があるからな」
「人は、要らないのですか?」
「人はいなきゃダメだよ」
「ダメですよね」
「いなけりゃ、血が採れないよ」

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【2013/09/07 00:00】 | 照る日曇る日
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ひろしときよし!
朱庵
今日はどんなお話かしら?と楽しみにしていました。
なんとドラマティック!凄い経験されたのですね!
病院の患者名前間違いって、少し前まではどこの病院でもある事だったらしいですが、実際に経験されていたとは。
ひろしときよし、語尾が同じだけなのに耳に入る時その語尾がきこえやすいのですよね。特に呼ぶ時は語尾に力入りますから。
よくよく考えたらこわ〜いお話です。
ナカパさんの当然の抗議に、能面看護師の無言の態度・・。
この感じよーくわかりますよ。
一生病院と縁が切れない私は名前が珍しい事もあり呼び間違えられる事はありませんが、患者と医師、看護師の関係には同じ思いしています。
ところで一ヶ月のご入院だったのですか、日々どうぞお大事になさってくださいね。
これからも、フィクション、ノンフィクション、楽しみにお待ちしていま〜す。

私も不注意でした
nakapa
>朱庵さん
私も間違えられたのは、この1回だけです。
後で考えると自分で気付くチャンスは3回くらいありましたが、
確認もしないで間違えられました。
確かに患者として気をつけていれば間違われることはなかったと思います。
いつも優しいコメント有難うございます。


ちゃちゃ
お久しぶりです、nakapa さ~ん!
私も月一の検診日には必ず血液検査です。
注射器に自分の血が吸い込まれていくのを見るのが好きです。
あ~あ、今日も生きているのだ!と感じます。

ホントにお久しぶりですね!
nakapa
ホントにお久しぶりですね!
ひょんなことから、その大病院で陰の有名人になりました。
終わってみれば何でも笑い話にするのが好きです。
笑ってすまない深刻な事態もあると思いますが、
幸運にも今のところ遭遇していません。

いや~驚きました
コマクサ
大病院でもそんな間違いがあるのですか。
看護師さんも真っ青でしたね。
私は先月年一度の、とくとく検診に行って来ました。
各検診の度に名前の確認がされました。
nakapaさんの様な間違いがあっては困りますよね。

気がつかない私もおバカさん
nakapa
>コマクサさん
そうなんですよ。たいへん困ります。
大病院だからでしょうね。とにかく待っている人が多くて。
お医者さんはパソコンとにらめっこです。
気がつかない私もバカですが…。
後から考えると3回は気付くチャンスがありました。


空見
nakapaさんこんばんは~
医者はあまり患者を見てないですね、パソコンのデーターしか見てないようです。
大量の人をこなすための時間がないんでしょうね、ワタシは怪しいなぁと思う時には、不審な点を訊きます、相手はメーワクそうな顔していますがね・・こちらも背に腹は替えられない。
まぁその手の、マジであっけにとられる病院話は多いです。
今回の記事は最高に面白く拝見しました。各人物描写も際立っていましたよ(拍手)




nakapa
>空見さん
確かにそうですね。その先生は顔をほとんど見ていません。
いつものの先生は顔を見て「おはようございます」とか挨拶をしてくれます。
これを含めて4回くら確かめるチャンスがありましたが見過ごしました。
反省しています。
ところで、空見さんの一言にはいつも励まされます。
このブログは読む人も少ないしやめようかな?とか思うこともあります。
お陰様で何とか続けています。

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