「穴があったら入りたい程恥ずかしい」。 とか言うけれど、私は実際に穴を見つけて入ってしまった。 正確には穴から出たと言うべきかも知れない。
人生、歌って踊れなければ楽しくない。
「いい歳して歌って踊って、何が面白いんだ」というのは一種の見栄だろう。
実を言うと恥をかきたくないのだ。下手な歌を人前で歌うのはかなりの「恥かき」だが、もっと凄いのがダンスだ。
これ以上の恥はない! というくらい、思いっきり恥をかかせてくれる。
そんな思いで、あの夜のことを思い出した。
「歌って踊れて、口八丁」。 かっての同僚だが、少し若いAさんから誘われた。 どこだか分からないが、好奇心もあって軽い気持でついて行くことにした。
Aさんは在職中からダンスの達人として知られていたが、まだ踊っている姿を見たことがない。 口ほどかどうか見てやろうという、冷やかし気分もあった。
「ダンスなんかできないよ」
「いいのいいの、飲んで食べて1000円ポッキリ。踊らなくてもいいんだよ」
地下鉄すすきの駅の前で待っていると、Aさんはバックを二つ持ってやってきた。 なぜか怪しげだ。あのバッグは一体なんだろう?

「ここが例の店だよ。入るときこれ持ってくれない」
「何ですか。これ?」
「ダンスシューズさ」。 いかにもAさんらしいトンチンカンな答だ。
「ダンスできないって言ったでしょう。第一、靴が合うはずないじゃない」
「いいのいいの。これ持ってれば1000円だから」
聞けば普通は2000円だと言う。 ああ、叉引っかかってしまった。
私は別に1000円にしてもらう必要などないのだ。
入ってみると、意外にも小奇麗なところだ。天井のキラキラ光るライトがクルクル回っている。大きめのフロアの向こうにステージが見える。
ソファに座り、やっと気分が落ち着いた。「久しぶりだね。今なにしてんの」。
「10年ぶりだね。遊んで暮らしているよ。 もう、楽しくってしょうがないよ」
これは彼の口癖。 大病のときでさえ、そう言っていたのだから偉い!
ビールを飲みながら話は弾む。瞬く間に1時間が過ぎてしまった。 ダンスの達人のAさんは、キョロキョロ辺りを見渡したと思ったら、「ちょっと踊ってくるわ」と言って、席を立った。
1時間話して、30分、彼が踊るのをを観て、家に着いて8時というのが、当初からの私のプラン。 全ては計画どおりに進んでいる。
さすがはダンスの達人、大したものだ、さっと手を斜めに上げた格好などは、映画で見た「サタデーナイトフィーバー」の青年にそっくりだ。
異変は、この後に起こった。 さっさと帰ればいいものを一応彼が席に帰ってくるのを待って、挨拶して帰ろうとと思ったのが間違いだった。
Aさんは、席に帰って来たが、女性(Bさん)を連れてきて、座る気配がない。
立ったまま私に話しかけて来た。
「踊ってやって下さい」。そのときは、彼が言ってる意味が分からなかった。とにかく「Aさんが帰ってきたら、挨拶して帰ろう」とだけ、思っていた。
私の頭の回転は鈍い。 一度、こう言おうと決めたら、状況の変化に応じた変更がなかなかできない。
「楽しかったよ。用事もあるし、帰るよ」。用意した言葉をそのまま言った。
「せっかくだから、帰る前に踊っていったら」。横で初対面のBさんが肯いている。
「ダンスはダメなんですよ」。 帰るために立ち上がると、Aさんは畳み掛けてきた。
「ブルースだから、ただ立っているだけでいいのよ」。 スローな音楽が聞こえる。
私は30分間、この席でダンスを見ていたのだ。 ここはまるで、ダンスの練習場のようだ。 立ち止まっている人など何処にもいない。 フロアを所狭しと回りながら優雅に踊っている。
この時点では、ここは昔、行ったことのある、田舎の安キャバレーとは違うのだという認識はちゃんと出来ていたのだが……。
ビールを1時間半も飲んでほろ酔い気分。 これが失敗の元だ。 ベロンベロンに酔っ払っていれば、何も覚えていないから、自分としては問題ない。
ほろ酔いはいけない。 気が少しだけ大きくなり、ロマンチックな気分は、かなり大きくなる。 しかも、記憶にはちゃんと残るのだ。
ただ、自分を省みることだけを忘れている。 それ故に、気分だけは前向きだ。
私は予定とは全く違う行動に出てしまった。
恥ずかしくなるのは、全てが終わってからだ。この場合はダンスが終わってからである。 例え話ではない。恥ずかしくって、本当に穴に入りたくなったのだ。
どんなことでも、一心に願えば叶うものだ。穴の代わりに出口が目に入った。
外に出てホッとした。幸いだれも知った人に会わない。 私が喋らなければ、何事もなかったのと同じことだ。 知らない街はホントに有難い。 旅の恥はかき捨てでいいのだ。
これも小さな旅。近くても知らない街、それが夜の薄野である。
私がすっかり馴染んでいる中島公園より、僅か500m北にある。
東京以北最大の歓楽街である。
「肝心なことが抜けてるよ!」
「何がですか?」
「ダンスのことよ」
「あれはいいんです」
「なにっ!」
「恥はかかないことにしています」
人生、歌って踊れなければ楽しくない。
「いい歳して歌って踊って、何が面白いんだ」というのは一種の見栄だろう。
実を言うと恥をかきたくないのだ。下手な歌を人前で歌うのはかなりの「恥かき」だが、もっと凄いのがダンスだ。
これ以上の恥はない! というくらい、思いっきり恥をかかせてくれる。
そんな思いで、あの夜のことを思い出した。
「歌って踊れて、口八丁」。 かっての同僚だが、少し若いAさんから誘われた。 どこだか分からないが、好奇心もあって軽い気持でついて行くことにした。
Aさんは在職中からダンスの達人として知られていたが、まだ踊っている姿を見たことがない。 口ほどかどうか見てやろうという、冷やかし気分もあった。
「ダンスなんかできないよ」
「いいのいいの、飲んで食べて1000円ポッキリ。踊らなくてもいいんだよ」
地下鉄すすきの駅の前で待っていると、Aさんはバックを二つ持ってやってきた。 なぜか怪しげだ。あのバッグは一体なんだろう?

「ここが例の店だよ。入るときこれ持ってくれない」
「何ですか。これ?」
「ダンスシューズさ」。 いかにもAさんらしいトンチンカンな答だ。
「ダンスできないって言ったでしょう。第一、靴が合うはずないじゃない」
「いいのいいの。これ持ってれば1000円だから」
聞けば普通は2000円だと言う。 ああ、叉引っかかってしまった。
私は別に1000円にしてもらう必要などないのだ。
入ってみると、意外にも小奇麗なところだ。天井のキラキラ光るライトがクルクル回っている。大きめのフロアの向こうにステージが見える。
ソファに座り、やっと気分が落ち着いた。「久しぶりだね。今なにしてんの」。
「10年ぶりだね。遊んで暮らしているよ。 もう、楽しくってしょうがないよ」
これは彼の口癖。 大病のときでさえ、そう言っていたのだから偉い!
ビールを飲みながら話は弾む。瞬く間に1時間が過ぎてしまった。 ダンスの達人のAさんは、キョロキョロ辺りを見渡したと思ったら、「ちょっと踊ってくるわ」と言って、席を立った。
1時間話して、30分、彼が踊るのをを観て、家に着いて8時というのが、当初からの私のプラン。 全ては計画どおりに進んでいる。
さすがはダンスの達人、大したものだ、さっと手を斜めに上げた格好などは、映画で見た「サタデーナイトフィーバー」の青年にそっくりだ。
異変は、この後に起こった。 さっさと帰ればいいものを一応彼が席に帰ってくるのを待って、挨拶して帰ろうとと思ったのが間違いだった。
Aさんは、席に帰って来たが、女性(Bさん)を連れてきて、座る気配がない。
立ったまま私に話しかけて来た。
「踊ってやって下さい」。そのときは、彼が言ってる意味が分からなかった。とにかく「Aさんが帰ってきたら、挨拶して帰ろう」とだけ、思っていた。
私の頭の回転は鈍い。 一度、こう言おうと決めたら、状況の変化に応じた変更がなかなかできない。
「楽しかったよ。用事もあるし、帰るよ」。用意した言葉をそのまま言った。
「せっかくだから、帰る前に踊っていったら」。横で初対面のBさんが肯いている。
「ダンスはダメなんですよ」。 帰るために立ち上がると、Aさんは畳み掛けてきた。
「ブルースだから、ただ立っているだけでいいのよ」。 スローな音楽が聞こえる。
私は30分間、この席でダンスを見ていたのだ。 ここはまるで、ダンスの練習場のようだ。 立ち止まっている人など何処にもいない。 フロアを所狭しと回りながら優雅に踊っている。
この時点では、ここは昔、行ったことのある、田舎の安キャバレーとは違うのだという認識はちゃんと出来ていたのだが……。
ビールを1時間半も飲んでほろ酔い気分。 これが失敗の元だ。 ベロンベロンに酔っ払っていれば、何も覚えていないから、自分としては問題ない。
ほろ酔いはいけない。 気が少しだけ大きくなり、ロマンチックな気分は、かなり大きくなる。 しかも、記憶にはちゃんと残るのだ。
ただ、自分を省みることだけを忘れている。 それ故に、気分だけは前向きだ。
私は予定とは全く違う行動に出てしまった。
恥ずかしくなるのは、全てが終わってからだ。この場合はダンスが終わってからである。 例え話ではない。恥ずかしくって、本当に穴に入りたくなったのだ。
どんなことでも、一心に願えば叶うものだ。穴の代わりに出口が目に入った。
外に出てホッとした。幸いだれも知った人に会わない。 私が喋らなければ、何事もなかったのと同じことだ。 知らない街はホントに有難い。 旅の恥はかき捨てでいいのだ。
これも小さな旅。近くても知らない街、それが夜の薄野である。
私がすっかり馴染んでいる中島公園より、僅か500m北にある。
東京以北最大の歓楽街である。
「肝心なことが抜けてるよ!」
「何がですか?」
「ダンスのことよ」
「あれはいいんです」
「なにっ!」
「恥はかかないことにしています」
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フラダン ウフフ。。。可笑しくって、可笑しくって!
ナカパさんの姿を何となく想像しちやったわ、、、
予定とは全く違う行動に出てしまう事って
ナカパさんに限らず良くある事よそんな時は
諦めて楽しむことね、それにしても笑える!
シャウリダンス
caxton 昔の事を思い出して、可笑しくなつて思わず頷いてしまいました。正式なダンスは苦手で、誘われると「ダンスとお産は出来ないの?」と冗談を言っていました。しかし踊れる人は羨ましくもありました・・
鶴子 穴に入りたくなるようなどんなことがあったのか
知りたくなってしまいましたぁ。
私にだけ、そっと教えてくださってもいいです
よ。(笑)
ダンスで若さを
賢爺 軽妙な「穴論議」を拝読しました。
小生のブログにも書きましたが、
今日は「エッセーの日」でもあります。
若いころ社交ダンスを習いました。
しかし応用するのはキャバレー、クラブでの
お遊びでした。
囲碁のプロ棋士「武宮九段」もソシャルダンスを
現在も楽しんでいるそうで、羨ましい限りです。
フラダンさんへ
nakapa 恥は書かないことにしているので、肝心な部分は抜かしました。
存分に想像してください。想像したら可笑しかったですか? それほどでもないですよ。
諦めて、楽しめれば、どんなにいいでしょう!
もっと悲惨な状態でしたよ。なんたって、穴があったら入りたかったのですから。
caxtonさんへ
nakapa この話、もう少し早く聞いていれば好かったですね。
こんどこそ「ダンスとお産は出来ないの?」と言ってみます。
しかし、ここでやめて置くのがジェントルマン。
私はつい、「ネタ切れです」とか言いたくなります。
こんな調子ですから、普段はなるべく冗談言わないようにしています。
真面目人間で通っています。初めての訪問有難うございます。よろしくお願いします。
鶴子さんへ
nakapa 教えて差し上げたいのはやまやまですが、恥は書かないことにしています。
居た堪れないのに居なければならない感じ。
取り付く島もないのに、しがみ付いてしまった感じですかねー。
経験ありますか。 ないでしょうね。
賢爺さんへ
nakapa そうですか。ダンス習っていらしたのですね。どうりで、姿勢がいいと思いました。
ダンスが出来るのも、若さの一つですね。
私も出来る人が羨ましいです。せめて姿勢だけでもよくしたいです。
きょうは「エッセーの日」ですか。いい日旅立ちですね。
いいとしとは何歳でしょうね
holoholom 人生、歌って踊れなければ楽しくない
その通りだと思いますよ。これに加て、演技してと来ればミュージカルスターですよ
nakapaさんは、歌はマスターしたし、演技は地のままで良いし、その時のダンス見てみたかったですね
良い年をして毎日チャレンジしています。
のん子 私は社交ダンスを習ったことが有りますので、状況はよく解ります(^^ゞ
あれは男性がリード役なので、未経験者だったら相手女性は講師クラスでないと無理です
チークダンス(解ります?)以外なら
そのお友達、ちょっと酷いんじゃないですか?
私なら、お返しの計画を練ります、怖い?(笑)
良いように考えれば、それで発奮してダンスを習うように仕向けたつもりかもですが・・・